
「脊髄小脳変性症」という診断だけでも心が揺れるなか、医師から「遺伝子検査」のお話があり、「SCA〇〇型」という数字のついた病名を聞いて、戸惑っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
私自身、この病気について学び始めた頃は、アルファベットと数字の羅列に目が回りそうになったことを覚えております。 現在の医学では、遺伝性の脊髄小脳変性症(常染色体優性遺伝を示すもの)は「SCA(Spinocerebellar Ataxia:脊髄小脳失調症)」と呼ばれ、原因となる遺伝子が見つかった順番に、SCA1からSCA48、あるいはそれ以上へと番号が付けられています。
「こんなに種類があるの?」と驚かれるかもしれませんが、すべてが同じ頻度で現れるわけではありません。日本人に多い型、欧米に多い型、そして症状の出方には、それぞれ明確な特徴がございます。 今日は、この少し複雑な「SCAの分類と特徴」について、医学的なデータをもとに、できるだけ分かりやすく整理してお伝えいたします。ご自身の、あるいはご家族の病気を深く知るための一助となれば幸いです。
1. 遺伝子の「どこが」変化しているかによる3つの分類

SCAの番号は発見順ですが、遺伝子の「どのような変化(変異)」が原因かによって、大きく3つのグループに分けることができます。
- ポリグルタミン病(CAGリピート病): 遺伝子の中の「CAG」という暗号の繰り返しが、異常に長く伸びてしまうタイプです。SCA1、SCA2、SCA3、SCA6、SCA7、SCA17、そしてDRPLAなどがここに含まれます。
- 非翻訳領域リピート病: タンパク質を作らない領域(非翻訳領域)の暗号の繰り返しが伸びてしまうタイプです。日本人に多いSCA31や、SCA8、SCA10、SCA36などが該当します。
- 従来型の変異: 繰り返しではなく、遺伝子の一部が抜け落ちたり、書き換わったりする(点変異・欠失)タイプです。SCA5、SCA11、SCA13などが含まれます。
2. 日本人に多い型、世界に多い型の違い
SCAの種類は数多くありますが、国や地域によって、発症しやすい型には大きな偏りがあります。
2-1. 日本人に多い「4つの型」

日本の遺伝性脊髄小脳変性症の約70〜80%は、以下の4つの疾患で占められています。
- SCA3(マシャド・ジョセフ病): 日本で最も多く、世界的にも最も多い型です。
- SCA6: 日本で2番目に多い型です。
- SCA31: 日本人に特有の型で、海外ではほとんど見られません。
- DRPLA: 欧米では稀ですが、日本では比較的多く見られます。
また、日本国内でも地域差があると言われており、例えば東北・北海道ではSCA1、関東・中部ではSCA3、長野・南九州ではSCA31、西日本(芦田川流域など)ではSCA36が多い傾向が報告されています。
2-2. 欧米(世界)で多い型

世界的に見ると、SCA3が最も多いのは日本と同じですが、次いでSCA1、SCA2が多く見られます。一方で、日本に多いSCA6やSCA31は、欧米では比較的稀なケースとなります。
3. 主要な遺伝子型(SCA)の特徴
ここからは、代表的な型の特徴を順番に見てまいりましょう。番号順ではなく、グループごとに分けてご説明いたします。
3-1. ポリグルタミン病(主要なグループ)
- SCA1: 東北・北海道に多い傾向があります。ふらつき(小脳失調)に加えて、足のつっぱり(痙縮)や、飲み込みにくさ(嚥下障害)が伴いやすいのが特徴です。
- SCA2: 欧米やキューバで多く見られます。ふらつきに加え、目の動きがゆっくりになる(緩徐眼球運動)ことや、末梢神経の障害が特徴です。パーキンソン病に似た症状が出ることもあります。
- SCA3(マシャド・ジョセフ病): 日本で最も多い型です。症状の幅が広く、ふらつきのほかに、目をカッと見開くような表情(びっくり眼)、筋肉のつっぱりや固さ、手の震えなど、多彩な症状が現れることがあります。
- SCA6: 日本で2番目に多い型です。40〜50代と発症が遅めで、症状は「ふらつき」と「喋りにくさ」にほぼ限られます(純粋小脳型)。進行が非常にゆっくりであることが特徴です。
- SCA7: ふらつきよりも先に、または同時に、視力の低下(網膜色素変性)が起こるのが最大の特徴です。世代を経るごとに症状が重くなりやすい傾向(表現促進現象)が強く見られます。
- DRPLA(歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症): 日本に多い疾患です。20歳未満で発症すると「てんかん」が主な症状となり、成人以降で発症すると、ふらつきや認知機能の低下、体が勝手に動く症状(舞踏運動)が現れるなど、発症年齢によって症状が大きく異なります。
3-2. 非翻訳領域リピート病(日本に特徴的なグループ)
- SCA31: 日本人に特有の型で、長野県や南九州に多い傾向があります。SCA6とよく似ており、症状はふらつきなどに限られ(純粋小脳型)、進行はゆっくりです。平均発症年齢が60歳前後と、SCA6よりもさらに高齢で発症するのが特徴です。
- SCA36(Asidan): 西日本、特に芦田川流域に多いとされています。ふらつきに加えて、舌の筋肉が痩せたり、手足の筋肉が痩せたりする(運動ニューロン症状)のが特徴です。
3-3. その他の型(稀なケースや新しい知見)
- SCA4 / SCA5 / SCA8: SCA4は感覚障害を伴うもので日本では稀です。SCA5はアメリカのリンカーン大統領の家系に関連するとも言われ、進行が非常に遅い純粋小脳型です。SCA8も進行が遅いタイプです。
- SCA27B: 最近になって原因遺伝子が特定された新しい型です。ふらつきだけでなく、発作的なめまいや眼振(目の揺れ)を伴うことが報告されています。
4. 遺伝子診断の意味と、ご家族への配慮
このように、SCAには非常に多くの種類があり、臨床症状やMRI画像だけでは、どの型なのかを正確に見分けることが難しい場合があります。そのため、確定診断には血液を用いた遺伝子検査が有効です。ご自身の型を正確に知ることは、今後の症状の見通しを立て、適切な治療や生活の準備をする上で大きな助けとなります。
しかし、遺伝子検査は、ご自身の診断を確定させるだけでなく、お子様やご兄弟といった「血縁者の方々が、将来発症する確率」をも同時に明らかにしてしまうという、非常に重い側面を持っています。
検査をお受けになる前には、必ず専門の遺伝カウンセラーや主治医の先生と十分に話し合いの時間を設けてください。「知りたい」というお気持ちと同じくらい、ご家族の「知らずにいる権利」や将来の生活への影響について、ご家族皆様で慎重に考え、心づもりをしていただくことが何よりも大切だと存じます。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- 遺伝性脊髄小脳失調症の病態と治療展望(医学書院)
- 脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)
- 運動失調のみかた、考えかた―小脳と脊髄小脳変性症―(中外医学社)
当院までのルートを詳しく見る
関東方面からお越しの場合
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で
北陸・東海方面からお越しの場合
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で
バスで
電車で