
「脊髄小脳変性症の進行段階はどのくらいなのか」「SARAの点数は重いのか軽いのか」―― 診断を受けた後、ご自身の体の変化に対して、そんな不安を抱えていませんか。
日々の生活の中で「少し歩きにくくなったかな」と感じることはあっても、それを言葉で正確に把握するのは難しいものです。 実は、医療の現場では、その「少しの歩きにくさ」や「ふらつき」の進行段階を客観的に測るための、世界共通の「評価スケール(点数表)」が使われています。
この記事では、病院で医師がどのように進行度を測っているのか、そしてその点数が毎日の生活にどう関わってくるのかを分かりやすく解説します。
1. 病院でよく使われる「SARA(サラ)」とは?

現在、世界中の病院や、新しいお薬の治験などで最もよく使われているのが「SARA(小脳性運動失調評価スケール)」と呼ばれる点数表です。
1-1. SARAの特徴
この検査の最大のメリットは、患者さんの負担が少ないことです。検査項目が8つに絞られており、およそ4分という短い時間で終わります。
1-2. 点数の見方(0〜40点満点)
0点から始まり、点数が高くなるほど「症状が重い(ふらつきが強い)」ことを示します。(※最大得点は40点とされることが多いですが、文献により42点とされることもあります。)
1-3. 8つの検査項目
医師は、診察室で以下の8つの動きを見て点数をつけます。
- 歩行(0〜8点): どのくらい安定して歩けるか
- 立位(0〜6点): 足を揃えて立てるか
- 坐位(0〜4点): 座った姿勢を保てるか
- 言語障害(0〜6点): 言葉の明瞭さ
- 指追い試験(0〜4点): 医師の指をスムーズに目で追えるか
- 鼻-指試験(0〜4点): 自分の鼻と医師の指を交互に正確に触れるか
- 手の回内・回外運動(0〜4点): 手のひらを素早くひらひらと返せるか
- 踵(かかと)すね試験(0〜4点): 仰向けで踵を反対のスネに沿ってまっすぐ滑らせることができるか
SARAの点数が上がったと言われると、「もう止められないのでは」と感じてしまう方も少なくありません。 ですが、点数は“進行の証明”ではなく、“現在地の確認”です。
2. SARAのスコアと「日常生活の目安」

「点数がついたけれど、それがどういう意味を持つのか分からない」 そんなお声もよく聞かれます。医学的な研究により、SARAの点数と「日常生活の不自由さ」には、明確な関連があることがわかっています。
- 10点以下(自立期): 着替えや食事など、日常生活の動作はほぼご自身で、自立して行える状態です。
- 15点の壁(支障が出始める): スコアが15点を超えてくると、日常生活のさまざまな場面で「やりにくさ」や「不便さ」が目立つようになってきます。
- 20点の壁(介助が必要に): スコアが20点を超えると、歩行や生活の動作になんらかの介助(手すりやご家族のサポートなど)が必要になってくるケースがほとんどです。
2-1. 今のあなたのスコアはどうでしょうか?
もし、最近SARAが15点に近づいてきたと言われた方。 それは「まだ歩ける時期」と捉えるのか、それとも「今すぐ対策を始める時期」と捉えるのか。
実は、同じ15点であっても、ご自身の「体の使い方」次第で、そこから先の将来は大きく変わります。点数だけを見て悲観するのではなく、今の機能とどう向き合うかが最も重要なのです。
3. より細かく調べる「ICARS(アイカルス)」

SARAよりも前から使われている、もう一つの代表的な評価スケールが「ICARS(国際協調運動評価尺度)」です。
3-1. ICARSの特徴
SARAが8項目だったのに対し、ICARSは19項目もあります。検査には約3倍の時間がかかりますが、神経の症状をより細かく、まんべんなく評価できるのが特徴です。合計100点満点で、高得点ほど重症であることを示します。
3-2. 4つのカテゴリ
大きく分けて、以下の4つの項目を細かくチェックします。
- 姿勢と歩行障害(34点分)
- 小脳失調(手足の運動障害)(52点分)
- 構語障害(言語障害)(8点分)
- 眼球運動障害(目の動き)(6点分)
4. 日本でよく使われる「5段階の重症度分類」
SARAやICARSといった細かい点数とは別に、日本の日常診療でよく使われているのが、主に「歩けるかどうか」に焦点を当てた、わかりやすい5段階の分類(平山の重症度分類など)です。
- Ⅰ度: 独歩可能(一人で歩ける)
- Ⅱ度: 随時補助・介助歩行(ときどき杖や手すり、人の支えが必要)
- Ⅲ度: 常時補助・介助歩行(常に歩行器や人の介助が必要)
- Ⅳ度: 歩行不能、車椅子生活
- Ⅴ度: 臥床状態(ベッドでの生活が中心)
5. まとめ:点数は「未来設計の地図」です
病院で評価スケールの点数を聞くと、少し上がってしまった数字に一喜一憂してしまうかもしれません。ですが、SARAやICARSは単なる点数ではなく、「これから何を準備すべきか」を教えてくれる“未来設計の地図”なのです。
「スコアが15点に近づいてきたから、お風呂場に手すりをつけようか」 「歩行がⅢ度になってきたから、介護保険の申請を相談してみようか」
このように、必要なサポートを適切な時期に導入するための目安として活用してください。数字を味方につけて、ご自身の生活の質(QOL)を長く守っていきましょう。
点数は、進行に伴い上がることもあります。 けれど、「体の使い方」が整理されていないまま放置されることの方が、実は大きな問題です。
神経難病に特化し、医療評価スケールと照合しながら歩行分析・温度分析まで行っている鍼灸院は、全国的にも非常に限られています。
進行をただ見守るのではなく、今の状態を客観的に整理するところから始めませんか。 点数に振り回されるのではなく、点数を味方につける。 それが、これからの生活を守る第一歩です。 ひとりで抱え込まず、まずは今の状態を一緒に整理してみませんか。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
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参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- すべてわかる神経難病医療(中山書店)
- 脊髄小脳変性症のリハビリテーション(医歯薬出版)
- 運動失調の見方、考え方-小脳と脊髄小脳変性症-(中外医学社)