
脊髄小脳変性症と診断されたとき、ご自身のことだけでなく、「家族や子どもに遺伝するのでしょうか?」と不安に思われる方はたくさんいらっしゃいます。 大切なご家族のことですから、心配になるのは当然のことですよね。
日本の脊髄小脳変性症の患者さんのうち、約30%前後が「遺伝性」と言われています。 そして、その遺伝の伝わり方(遺伝形式)には、大きく分けて「優性遺伝(顕性遺伝)」と「劣性遺伝(潜性遺伝)」の2つの種類があります。
学校の理科の授業で「メンデルの法則」を習ったことを少し思い出されるかもしれませんが、病気のこととなると、難しくて少し怖い印象を受けてしまうかもしれません。 この記事では、この2つの遺伝のパターンの違いや発症する確率、そしてこの病気特有の遺伝の仕組みについて、できるだけ医学的に、かつ分かりやすく解説させていただきます。
1. 「優性」と「劣性」は、優劣ではありません

まず初めに、一番誤解されやすい言葉の意味についてお話しします。
人間の体は、父親と母親から1セットずつ(合計2セット)の遺伝子を受け継いでできています。 医学用語で使われる「優性(ゆうせい)」と「劣性(れっせい)」という言葉は、決して「遺伝子が優れている・劣っている」という意味ではありません。
最近では誤解を防ぐために、以下のように言い換えられるようになっています。
- 優性(顕性:けんせい): 特徴が「表に現れやすい」という意味です。2セットある遺伝子のうち、片方に変化(変異)があれば発症するタイプです。
- 劣性(潜性:せんせい): 特徴が「隠れやすい」という意味です。2セットある遺伝子のうち、両方に変化が揃わないと発症しないタイプです。
2. 日本で一番多い「優性遺伝」の特徴(確率50%)
日本の遺伝性脊髄小脳変性症の90%以上が、この「優性遺伝(顕性遺伝)」のタイプです。 マシャド・ジョセフ病(SCA3)、SCA6、SCA31、DRPLAなどがこれに当てはまります。多くは成人以降に発症します。
2-1. 発症する確率

親がこのタイプの病気を持っている場合、変化した遺伝子と正常な遺伝子のどちらかがお子さんに受け継がれます。 そのため、お子さんが原因遺伝子を受け継ぎ発病する確率は50%(2分の1)となります。
ここで一つ注意していただきたいのは、この「50%」というのは、「お子さんが2人いたら1人が発症する」という意味ではありません。「お子さん1人ひとりに対して、常にコインの裏表のように50%の確率である」ということです。
2-2. 家系図の特徴
片方の遺伝子の変化だけで発症するため、親から子、孫へと、世代を縦に連続して患者さんが現れるのが特徴です。男性も女性も同じ確率で発症します。
3. 日本ではとても珍しい「劣性遺伝」の特徴(確率25%)
日本では遺伝性全体の2%未満と、非常に稀なタイプです。欧米に多いフリードライヒ失調症などがこれに該当し、比較的若い年齢で発症しやすい傾向があります。
3-1. 発症する確率
このタイプは、ご両親がともに「保因者(変化した遺伝子を1つ持っているけれど、発症はしていない状態)」である場合に起こります。 ご両親から変化した遺伝子を1つずつ(合計2つ)受け継いだお子さんだけが発症します。この確率は25%(4分の1)となります。
3-2. 家系図の特徴
ご両親は発症していないため、家系図を見ると、世代を飛び越えて突然病気が現れたように見えます。ご兄弟の間で複数の方が発症することや、いとこ婚などの血族婚の家系で見られることがあります。
4. この病気特有の「表現促進現象」とは
優性遺伝の多く(SCA1、SCA2、SCA3、SCA6、DRPLAなど)では、通常の遺伝の法則に加えて、少し特殊な現象が見られることがあります。
4-1. CAGリピートという「繰り返し」

これらの病気は、原因となる遺伝子の中に「CAG」という3つの文字の暗号が、異常に長く繰り返されている(リピートしている)ことが原因だと分かっています。この繰り返しが長すぎると、神経細胞にダメージを与える異常タンパク質が作られてしまいます。
4-2. 世代を経るごとに早まる現象
この「CAGリピート」は少し不安定な性質を持っていて、親から子へ受け継がれるときに、この繰り返しの回数がさらに増えて(伸びて)しまうことがあります。
繰り返しの回数が増えると、親の世代よりも「発症する年齢が若くなる」「症状が少し重くなる」という傾向があります。これを医学用語で「表現促進現象(ひょうげんそくしんげんしょう)」と呼びます。 特に、父親からお子さんへ遺伝する場合に、この回数が増えやすいことが知られています。
5. 遺伝子検査とカウンセリングについて

「自分はどのタイプなのか」「子どもに遺伝しているのか」を正確に知るには、血液による遺伝子検査が必要です。
しかし、もしご自身が優性遺伝のタイプであった場合、ご自身の結果が分かると同時に、「お子さんも50%の確率で同じ遺伝子を持っている」という事実が確定してしまいます。 ご家族にとっては、「知る権利」と同じくらい、「まだ発症していない病気のことは、知らないでいる権利」も大切に守られなければなりません。
そのため、遺伝子検査を受ける前には、専門の「遺伝カウンセリング」を受けることが推奨されています。ご自身の不安、ご家族の将来の生活設計などを専門家とじっくり話し合い、ご家族皆様にとって一番良い選択を、時間をかけて探していきましょう。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- 小脳と運動失調(中山書店)
- 脊髄小脳変性症研究の進歩(科学評論社)
- 脊髄小脳変性症のすべて(日本プランニングセンター)
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