
「なぜ、私の小脳だけが壊れていくのだろう?」
「家族に遺伝してしまうのだろうか?」
「止める方法は本当にないのだろうか?」
脊髄小脳変性症と診断されたとき、ご本人もご家族も、真っ先にこうした根本的な疑問や不安を抱かれるのではないでしょうか。
お医者さんから「神経の細胞が少しずつ減っていく病気です」と説明されても、それが体の中でどうして起きているのか、なかなかイメージしづらいですよね。
結論からお伝えしますと、近年の遺伝子研究の目覚ましい進歩により、「なぜ神経細胞がダメージを受け、死滅してしまうのか」という発症メカニズム(原因)が、細胞レベルで少しずつ解明されてきています。
この記事では、脊髄小脳変性症の原因として現在注目されている「異常タンパク質の蓄積」や「ミトコンドリア機能障害」といった医学的なメカニズムを、できるだけ専門用語を噛み砕いて分かりやすく解説いたします。
敵(原因)の正体を知ることは、決して怖いことではありません。メカニズムが分かるということは、そこに向けた「新しい治療法」の開発が世界中で進んでいるという、未来への希望でもあるのです。
1. メカニズムの全体像:なぜ「神経細胞」が壊れるのか?
人間の体は、無数の細胞が互いに協力し合ってできています。脊髄小脳変性症の多くのタイプでは、生まれ持った「遺伝子」のわずかな違いが引き金となり、細胞が生きていくための基本的な機能が狂ってしまいます。
特に、小脳の中で運動のバランスを整える司令塔の役割をしている「プルキンエ細胞」という神経細胞は、こうした細胞内の小さなトラブルに対して非常にデリケート(脆弱)です。そのため、他の臓器は元気なのに、小脳の神経細胞だけが選択的にダメージを受け、ゆっくりと脱落(死滅)していくと考えられています。
では、その「トラブル」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。代表的な4つの原因を見ていきましょう。
原因①. 「異常なタンパク質」が溜まる(ポリグルタミン病)

日本の遺伝性脊髄小脳変性症で最も多いグループ(SCA1、SCA2、SCA3/マシャド・ジョセフ病、SCA6、DRPLAなど)に共通するメカニズムです。
「CAGリピート」という暗号の繰り返し
私たちの遺伝子の中には、「C・A・G」という3つの文字(塩基)が繰り返されている部分があります。この病気の方では、この「CAGの繰り返し(リピート)」が、通常よりも異常に長く伸びてしまっています。
細胞の中の「ゴミ」が神経を壊す
CAGという暗号は、体の中で「グルタミン」という部品(アミノ酸)を作ります。暗号が長すぎると、異常に長い部品を持った「不良品のタンパク質」が作られてしまいます。 この不良品は正しい立体構造を保てず、細胞の中でクシャクシャに折りたたまれ、やがて固まって塊(ゴミ)になってしまいます。この塊や、塊になる前のドロドロとした状態のタンパク質が強い毒性を持ち、神経細胞の働きを邪魔して、最終的に細胞を死に至らしめてしまうのです。
原因②. 「RNAの塊」が正常な働きを邪魔する(RNA毒性)
日本人に特有のSCA31や、西日本に多いSCA36などで見られるメカニズムです。こちらはタンパク質ではなく、「RNA(遺伝子の情報を運ぶコピー用紙のようなもの)」が直接悪さをします。
異常に伸びてしまった遺伝子から作られたRNAが、神経細胞の核(中心部)の中で固まりを作ってしまいます(RNA fociと呼ばれます)。 このRNAの塊は、細胞が正常に働くために必要な他の大切な物質を、まるで磁石のように吸い寄せて閉じ込めてしまいます。その結果、細胞の正常な機能が狂い、神経細胞が変性してしまいます。
ここまで読むと、「難しすぎて自分には関係ない話」に感じるかもしれません。 しかし大切なのは、“なぜ揺れるのか”の背景には、こうした細胞レベルの変化があるという事実です。
原因③. エネルギー工場の故障と「サビ」(ミトコンドリア)

遺伝しないタイプ(孤発性)の代表である「多系統萎縮症(MSA)」の一部などで注目されているメカニズムです。
細胞の中には、「ミトコンドリア」というエネルギーを作る工場があります。MSAの患者さんの一部では、この工場でエネルギーを作るために必要な物質(コエンザイムQ10など)を合成する遺伝子の働きが落ちていることが分かってきました。
エネルギー工場がうまく働かないと、細胞内に「活性酸素」という有害な物質が増え、細胞がサビついてしまいます(酸化ストレス)。この強いサビのダメージによって、神経細胞が徐々に壊れていくと考えられています。
原因④. カルシウムの異常と、DNAの修復モレ

他にも、神経細胞を壊す原因がいくつか解明されています。
- カルシウムの異常(SCA6など): 神経細胞が情報をやり取りするのに欠かせない「カルシウム」の通り道(チャネル)が壊れてしまうメカニズムです。プルキンエ細胞はカルシウムの急激な変化にとても弱いため、これが直接的なダメージになります。
- DNAの修復モレ: 私たちの細胞のDNA(設計図)は毎日少しずつ傷ついていますが、通常は自動的に修復されます。しかし、稀な劣性遺伝のタイプなどでは、この「修復するハサミやノリ」が生まれつき欠けているため、傷がどんどん溜まり、細胞が死滅してしまうことが分かっています。
6. まとめ:原因が分かるからこそ、薬が創れる
「細胞が壊れていく理由」を並べると、少し怖い気持ちにさせてしまったかもしれません。 しかし、「メカニズムが解明される」ということは、「どこを直せば病気が止まるのか(治療の標的)」がはっきりと見えてきたということです。
現在、異常なタンパク質を分解するお薬や、原因となる遺伝子の働きを根元から抑え込む新しいお薬(核酸医薬など)の開発に、世界中の研究者が全力を注いでいます。医学の進歩は、確実に希望の光を届けてくれています。
7. お薬が届くまでの間、私たちにできること
根本的な治療薬が手元に届くまでの間、私たちがただ進行を待つしかできないかというと、決してそんなことはありません。
神経の細胞が少しずつ減ってきている状態だからこそ、「今ある細胞、残された機能を、いかに上手に使って体を動かすか」が何よりも重要になってきます。
神経難病を専門に40年間診てきた鍼灸院は、全国でも極めて少数です。 さらに、医療評価スケールと温度分布データを照合しながら分析している施設は、ほとんど存在しません。 当院は「感覚」ではなく、数値で“揺れの原因”を整理する鍼灸外来です。
つまり、「原因がわからない揺れ」を、「どこに負担がかかっている揺れなのか」という形に整理することができます。
原因は細胞レベルにありますが、対策は「いまの体の使い方」から始まります。 病気の発症メカニズムは変えられなくても、「今の体の使い方」を変え、生活の質(QOL)を長く守っていくことは十分に可能なのです。
8. 脊髄小脳変性症の「原因」を知ることは、無力になることではありません
細胞レベルの原因を知って、「自分ではどうしようもない」と感じてしまうかもしれません。 しかし、ゆっくり進む病気ほど、“何もしない時間”の影響が大きくなります。 だからこそ、「いま何が起きているのか」を整理する意味があります。5年後、10年後の差は、こうした“小さな整理”の積み重ねで生まれていきます。
「進行は避けられない」と言われたとしても、進行の“受け止め方”や“体の使い方”は変えることができます。 いま感じている揺れや違和感が、どこから来ているのか。 それを一度、客観的なデータで整理してみませんか。 無料相談では、現在のふらつき・歩行の状態・生活の不安を整理し、「今できること」から一緒に考えています。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- 小脳と運動失調 小脳はなにをしているのか(中山書店)
- 神経変性疾患の治療開発の現状 (医歯薬出版)
- 遺伝性脊髄小脳失調症の病態と治療展望 (医学書院)
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