脊髄小脳変性症と多系統萎縮症(MSA)の違い|鑑別診断のポイント

脊髄小脳変性症|多系統萎縮症との進行速度や予後の違いを詳しく解説

病院で「脊髄小脳変性症」と言われたり、別の時には「多系統萎縮症(MSA)」と説明されたりして、「結局、自分の病名は何なんだろう?」と混乱されている方も多いのではないでしょうか。

似たような言葉が飛び交うと、ご不安も大きくなりますよね。 実はこの2つ、全く違う病気というわけではなく、「グループの名前」か「具体的な病名」か、という違いなんです。

ただ、同じグループに属していても、他の脊髄小脳変性症と多系統萎縮症(MSA)とでは、現れる症状や進行のスピード、そして治療の方針が大きく異なります。

今回は、この少しややこしい2つの関係性と、医師がどのようにして病気を見分けているのか(鑑別診断のポイント)について、分かりやすく整理してご説明します。ご自身の体の状態を正しく知るためのヒントにしてみてください。

1. 脊髄小脳変性症は「総称」、MSAは「具体的な病名」

脊髄小脳変性症は総称、多系統萎縮症は具体的な病名

まずは、言葉の整理から始めましょう。

  • 脊髄小脳変性症(SCD): これは一つの病気の名前ではなく、運動失調(ふらつきなど)を主な症状とする神経の病気をまとめた「大きなグループの名前(総称)」です。この中には、遺伝するものと遺伝しないもの(孤発性)が含まれます。
  • 多系統萎縮症(MSA): これは、脊髄小脳変性症という大きなグループの中に含まれる「具体的な病名」の一つです。遺伝しないタイプ(孤発性)の中では最も患者数が多く、全体の半分以上を占めています。

昔は「オリーブ橋小脳萎縮症」や「シャイ・ドレーガー症候群」などと別々の名前で呼ばれていましたが、現在ではこれらをまとめて「多系統萎縮症(MSA)」と呼ぶようになっています。

2. 症状の違いの鍵は「自律神経」と「パーキンソン症状」

多系統萎縮症は排尿障害などの自律神経によるトラブルが強く現れる

では、他の脊髄小脳変性症(純粋に小脳だけが萎縮するタイプなど)とMSAでは、何が違うのでしょうか。 最大の違いは、MSAはその名の通り、小脳だけでなく「多系統(複数の神経系統)」にダメージが出る点です。

2-1. MSA特有のサイン

MSAの場合、ふらつきに加えて、初期から以下のような症状が強く現れるのが特徴です。

  • 自律神経のトラブル: 急に立ち上がると血圧が下がって気を失いそうになる(起立性低血圧)、トイレが極端に近くなる・出にくくなる(排尿障害)といった症状が目立ちます。
  • パーキンソン症状: 動作がゆっくりになる、筋肉がこわばるなどの症状が出ます。ただ、本家のパーキンソン病の薬(レボドパなど)を使っても、あまり効果が出にくいという特徴があります。

一方、他の脊髄小脳変性症(たとえば皮質性小脳萎縮症など)では、純粋に「ふらつき」だけが進行し、自律神経やパーキンソン症状はあまり目立ちません。

3. 進行のスピードと気をつけるべきこと

病気がどう進んでいくのか(予後)についても、明確な違いがあります。

3-1. MSAは進行が比較的速い

MSAは、他の多くの脊髄小脳変性症に比べて、進行のペースが速い傾向にあります。 データによると、MSAでは発症から約5年で車椅子が必要になり、約8年でベッドでの生活になることが多いと報告されています。 対して、小脳だけが萎縮する皮質性小脳萎縮症(CCA)などは進行が遅く、発症から10年経っても約70%の方がご自身の力で日常生活を送れているというデータがあります。

3-2. MSAで特に注意したいこと

MSAの進行で特に気をつけなければならないのが、「呼吸」のトラブルです。 声帯がうまく開かなくなる(声帯外転麻痺)ことがあり、睡眠中に大きな甲高いいびきをかいたり、突然息が止まったりする危険があります。そのため、早期からの呼吸管理が非常に重要になります。

4. 検査でどう見分けるか(MRIと原因物質)

脊髄小脳変性症や多系統萎縮症はMRIなどの精密検査で診断する

医師は、症状だけでなく、精密検査の結果を組み合わせて正確な診断を行います。

  • MRI画像(十字サイン): MSAの患者さんの脳をMRIで撮ると、脳幹の「橋(きょう)」という部分に、十字の形をした白く光る線(十字サイン:Hot Cross Bun sign)が見られることがあります。また、脳の奥深く(被殻)にも特徴的な線の変化が現れます。これが診断の強力な決め手になります。
  • 原因物質(シヌクレイン): MSAは、「シヌクレイン」という特定のタンパク質が脳の細胞に溜まることが原因だと分かっています。実はこれ、パーキンソン病と同じ原因物質のグループ(シヌクレイノパチー)なんです。遺伝性の脊髄小脳変性症の多くは全く別の原因物質(ポリグルタミンなど)で起こるため、根本的なメカニズムが異なります。

5. 正確な診断が、今後の生活を守る

「どうせ根本的な治療薬がないなら、細かく病名を分けても意味がないのでは?」と思われるかもしれません。 しかし、正確な診断は、これからの生活を守るための「作戦立て」に絶対に必要です。

MSAであることが分かれば、進行の速さを見越して、早めに手すりをつけたり、車椅子の準備をしたりできます。また、命に関わる睡眠時の呼吸トラブルに対しても、先回りして呼吸器(NPPVなど)を準備し、安全を確保することができるからです。

ご自身の診断名や今後の見通しについて、少しでもモヤモヤしていることがあれば、遠慮せずに主治医の先生に「私の正確な病名と、これから気をつけるべき症状は何ですか?」と聞いてみてくださいね。

病気についての疑問や、現在の症状で一番お困りのことは何でしょうか?もしよろしければ、今後の記事の参考にさせてください。

脊髄小脳変性症の鍼灸外来

一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。

脊髄小脳変性症の方の足部の温度分布を確認する様子

足部の温度変化を確認する検査の一例

「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」

「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」

私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。


当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。 脊髄小脳変性症の方では、 ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、 手足の温度分布に左右差が見られることがあります。 その一致を一緒に確認することで、 「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。

この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。

参考文献

この記事は、以下の資料に基づき作成されました。

  • 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
  • 脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)
  • 脊髄小脳変性症の臨床(新興医学出版社)
  • 多系統萎縮症の新診断基準とこれからの診療(医学書院)

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この記事を書いた人

神経内科疾患 認定鍼灸師 / 宮原 魁都

プロのサッカー選手を目指すも、膝の大怪我により夢を絶たれる。当時治療でお世話になった鍼灸師の影響があり、鍼灸師の道に進むことに。運動器疾患の治療を得意としているが、ずば抜けた根性と精神力で院長からの難題を次々クリアし、現在は神経内科疾患の鍼治療でも成果を上げている。

神経内科疾患 認定鍼灸師 / 宮原 魁都

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プロのサッカー選手を目指すも、膝の大怪我により夢を絶たれる。当時治療でお世話になった鍼灸師の影響があり、鍼灸師の道に進むことに。運動器疾患の治療を得意としているが、ずば抜けた根性と精神力で院長からの難題を次々クリアし、現在は神経内科疾患の鍼治療でも成果を上げている。

神経内科疾患 認定鍼灸師 / 宮原 魁都