
「脊髄小脳変性症」という診断を受けたとき、同じ病名なのに、患者さんによって現れる症状があまりに違うことに戸惑われた方も多いのではないでしょうか。 「この先どうなってしまうのだろう」「いつか歩けなくなるのではないか」と、見えない未来に強い不安や恐怖を抱えている方もいらっしゃると思います。
「歩きにくい」「呂律が回らない」という方もいれば、「立ちくらみがひどい」「手足がつっぱる」「物忘れが増えた気がする」という方もいらっしゃいます。 実は、この病気の症状は大きく分けて、①小脳の症状(小脳症状)と、②小脳以外の症状(非小脳症状)の2つに整理することができます。
そして、この分類ができると、「何を優先して整えるべきか」「どんな転び方に注意すべきか」がはっきりと見えてきます。 今日は少し専門的な言葉も出てきますが、できるだけ分かりやすく整理してお話ししますね。
1. まず中心になる「小脳症状」=運動の“誤差”が増える

脊髄小脳変性症の中核は、小脳の働きが低下することによる症状です。 小脳は、筋肉の動きの大きさ・方向・タイミングを調整して、動きを滑らかにする“調整役”です。ここが弱ると、医学的には「小脳性運動失調」と呼ばれる状態になります。
1-1. 歩く・立つ(体幹失調)
- 足を広く開いてバランスを取ろうとする(広基性歩行)
- お酒に酔ったようにふらつく(酩酊様歩行)
※家の中での方向転換や、すれ違いざまにバランスを崩して転びやすくなります。
1-2. 手足の動き(四肢失調)
- 目標に手が届きにくい、あるいは行き過ぎてしまう(測定障害)
- 滑らかな動きが、ロボットのようにカクカクと分解される(運動分解)
- コップを取ろうとするなど、動かした瞬間に手が震える(企図振戦)
※湯呑みや箸を使う動作が不安定になり、日常生活に細かな支障が出やすくなります。
1-3. 話し方(小脳性構音障害)
- 酔っ払ったように呂律が回りにくい
- 「あ・り・が・と・う」のように、一語一語が区切れる(断綴性発語)
- 話している途中で、声の強さが急に不安定になる(爆発性言語)
※電話での会話や、人前で話すことが大きな負担に感じられるようになります。
1-4. 目の症状
- 目の玉が細かく揺れる(眼振)
- 見ている景色が揺れて見える(動揺視)
※テレビや本を見るだけで、ひどく目や頭が疲れてしまいます。
2. 小脳以外にも影響が広がる「非小脳症状」

脊髄小脳変性症の多くのタイプでは、小脳だけでなく、脳幹、大脳基底核、脊髄、末梢神経などにも影響が及ぶことがあります。 その場合、小脳症状に加えて、次のような症状が合併して出やすくなります。
2-1. パーキンソン症状(錐体外路症状)
- 動作が全体的に遅くなる(動作緩慢)
- 体や関節がこわばって硬くなる(筋強剛)
- じっとしている時に手が震える(静止時振戦)※小脳の震え(企図振戦)とは“出る場面”が逆ですね。
- 姿勢を保つ反射が弱くなり、転びやすくなる(姿勢反射障害)
2-2. 自律神経障害(生活に直結)
- 立ち上がると血圧が下がり、フラっとする(起立性低血圧)
- 排尿のトラブル(トイレが近い、漏れる、出にくい)
- 頑固な便秘
- 睡眠時の呼吸トラブル(大きないびき、無呼吸など)
2-3. 錐体路(すいたいろ)症状
- 足がピーンと突っ張って曲げにくくなる(痙縮)
- 膝などを叩いたときの反射が異常に強くなる(腱反射亢進)
2-4. その他の症状
- 手足のしびれ、筋肉が痩せる(末梢神経障害)
- 自分の意思とは関係なく、手足が勝手に動いてしまう(不随意運動)
【大切なお知らせ】 これだけ症状が並ぶと怖くなってしまうかもしれませんが、ご安心ください。これらがすべて同時に現れるわけではありません。病気のタイプによって、症状の出方には大きな個人差と偏りがあります。
3. 小脳は「運動だけ」ではない?(CCAS)

近年、小脳は運動だけでなく、高次脳機能(認知や感情)にも関与することが分かってきました。これを「小脳性認知・情動症候群(CCAS)」と呼びます。
- 段取りを立てるのが苦手になる(遂行機能障害)
- 言葉がスムーズに出にくい
- 感情が乏しくなったり、場に合わない行動が出てしまう
これらは決して「気のせい」や「性格の変化」ではなく、病気による小脳の萎縮の影響として医学的に説明できる場合があります。
4. 症状の組み合わせで「タイプの目安」が見えてくる
ここまでの分類を使うと、「ご自身がどのタイプに近いのか」が整理しやすくなります。
4-1. 純粋小脳型(小脳症状が主体)
- 代表的な型: SCA6、SCA31、皮質性小脳萎縮症(CCA)など
- 特徴: ふらつきや呂律の回りにくさが中心で、自律神経障害やパーキンソン症状などは目立ちにくいタイプです。
4-2. 多系統障害型(小脳症状 + 非小脳症状が混ざる)
- 多系統萎縮症(MSA): 自律神経障害(立ちくらみや排尿トラブルなど)やパーキンソン症状が強く出やすいのが特徴です。
- マシャド・ジョセフ病(SCA3): 小脳症状に加えて、足のつっぱり(錐体路症状)やパーキンソン症状などが合併しやすいタイプです。
5. さいごに
症状が多彩だと、どうしても不安が大きくなってしまいますよね。 ですが、症状にはきちんと“タイプ”があり、タイプが違えば対策の優先順位も変わります。
例えば、小脳症状が主体のタイプであれば「転倒予防の環境づくり」が最優先になりますが、自律神経障害が目立つタイプなら「急に立ち上がらない動作の工夫(血圧管理)」が先決になり、錐体路症状が強いタイプなら「筋肉の緊張を和らげるケア」が重要になります。 主治医の先生に伝える時も、「小脳の症状」「小脳以外の症状」に分けてお話しできるだけで、診察がずっとスムーズになることがあります。
しかし実際には、これらをご自身だけで整理し、日々の対策に正しく落とし込むのは決して簡単ではありませんよね。
そして、ここからが当院の役割です。 当院は、「原因がわからない揺れ」を、「どこに負担がかかっている揺れなのか」という形に整理し、いまの体の使い方(クセ)を客観的に見える化していく鍼灸外来です。
サーモグラフィでは、全身の温度分布(左右差など)を確認し、ご本人が感じている歩きにくさや疲れ方と“重なる部分”がないかを一緒に整理します。実際の検査では、手足の冷えや温度の左右差が、動きにくさと重なって確認されるケースがあります。 感覚だけを頼りにするのではなく、データを補助線にして、今できる対策を組み立てる――それが私たちの方法です。
「この症状はどこから来ているのか」 「何を優先すれば転倒が減るのか」
本格的に転倒が増えてしまう前に。 自分の足で歩ける時間を、少しでも長く保つために。 いまの状態を正しく把握し、体の使い方を整理することが、数年先の将来の大きな差になります。
ひとりで抱え込まず、まずはご自身の状態を一つひとつ整理するところから始めませんか。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- 運動失調のみかた、考えかた―小脳と脊髄小脳変性症―(中外医学社)
- 脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症Q&A 172(全国SCD・MSA友の会編)
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