
進行性の病気である脊髄小脳変性症や多系統萎縮症と診断され、病状が少しずつ進んでいく中で、「この先、どうなってしまうのだろう」「最期は苦しまずに過ごせるのだろうか」と、ご本人もご家族も、言葉にできないほどの大きな不安を抱えていらっしゃることと思います。
これから先の見通しを立てることは、決して希望を捨てることではなく、ご自身らしい時間を一日でも長く、そして穏やかに過ごすための大切な準備です。終末期の経過には大きな個人差があり、すべての方が同じ経過をたどるわけではありません。
この記事では、終末期(末期)に現れやすい身体の変化、見逃してはいけない重要なサイン、そして苦痛を取り除くための医療やケアの選択肢について、医学的な観点からお話しいたします。
1. 終末期に見られる身体の変化

脊髄小脳変性症の終末期は、がんのようにある日突然急激に悪化するのではなく、長い時間をかけて、少しずつ身体の機能が低下していくのが特徴です。
1-1. 全身の機能低下と寝たきり
発症から長い年月(数年から十数年)を経て、徐々に歩行や立つことが難しくなり、最終的にはベッド上での生活(全介助)となります。 この時期には、手足の関節が固まってしまう「拘縮(こうしゅく)」が進むことがあり、着替えや体勢を変える際に痛みを伴うことがあります。
1-2. 嚥下障害(飲み込みの低下)
食事や水分を飲み込む力が極端に弱くなります。食べ物だけでなく、ご自身の唾液さえも誤って気管に入ってしまい(誤嚥:ごえん)、むせることが増えます。これにより、口から栄養を摂ることが非常に難しくなっていきます。
1-3. 呼吸機能の低下
呼吸をするための筋肉(呼吸筋)が弱くなり、ご自身の力だけで十分に息を吸ったり吐いたりすることが難しくなります(拘束性換気障害)。また、痰(たん)を外に押し出す力も弱くなるため、息苦しさを感じたり、肺炎を起こしやすくなったりします。
2. 命に関わる「危険なサイン」(多系統萎縮症を中心に)

特に「多系統萎縮症(MSA)」の方において、見逃してはいけない重要なサインがあります。
2-1. 睡眠時の異常ないびき
夜寝ている時に、「ロバのいななき」と表現されるような、甲高く、喉を絞められたような音が聞こえる場合(吸気性喘鳴)は、大変危険なサインです。 これは、声帯を開く筋肉が麻痺してしまい、空気の通り道(気道)が極端に狭くなっている状態(声帯外転麻痺)を示しています。夜間の突然死に直結する恐れがあるため、すぐに主治医にご相談ください。
2-2. 繰り返す「誤嚥性肺炎」
熱が出たり下がったりを繰り返し、抗生物質を使う回数が増えてきた場合は、食べ物や唾液が肺に入り続けているサインです。飲み込む機能(嚥下機能)が限界に近づいていることを示しています。
3. 苦痛を和らげる「緩和ケア」の選択肢

「もう何もできない」と諦める必要はありません。現在の医療では、終末期の苦痛を取り除くための「緩和ケア」が非常に進歩しています。
3-1. 呼吸の苦しさ(呼吸困難)への対処
息苦しさは、患者さんにとって最も辛い症状の一つです。 以前は、苦しさを取るために強い鎮静薬で意識を落とす(眠らせる)こともありましたが、現在はモルヒネなどの医療用麻薬を適切に使うことで、意識をしっかりと保ちながら、息苦しさや痛みだけを取り除く治療が推奨されています。
また、人工呼吸器(マスク式や気管切開)を着けるかどうかは、呼吸が苦しくなってから決めるのではなく、事前にご家族や主治医とよく話し合っておくことが大切です。
3-2. 栄養をどう摂るか
口から食べられなくなった時、「胃ろう(お腹から直接胃に管を通して栄養を入れる方法)」や点滴で栄養を補給するのか、それとも無理な栄養補給はせず、自然な経過に委ねるのか。これには正解はなく、患者さんご自身の価値観が最も尊重されます。
3-3. その他の苦痛緩和
関節が固まる痛みや、「じっとしていられない」という不快感(身の置き所のなさ)に対しては、こまめな体位変換、マッサージ、そしてお薬を調整することで、穏やかな状態を保つケアが行われます。
4. ご家族と話し合っておきたいこと(ACP)
いざという時に、ご家族が「どうするのが本人にとって一番良いのか」と迷い、苦しまないために、元気で意思を伝えられるうちから話し合っておくべきことがあります。これを「ACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)」と呼びます。
- 延命治療について: もし口から食べられなくなった時、あるいは自力で呼吸ができなくなった時、どのような治療を望むのか、あるいは望まないのか。
- 最期を過ごす場所: 自宅で過ごしたいか、病院や施設が良いか。
- 急変時の対応: もし自宅で急に息が止まったり、状態が悪くなったりした時、「救急車を呼ぶ(病院で延命治療を行う)」のか、「かかりつけ医を呼んで、そのまま自宅で看取る」のか。
これらは一度決めたら変えられないものではありません。ご本人の気持ちの変化に合わせて、何度でも話し合って良いのです。
最期のその時まで、ご本人らしく、痛みのない穏やかな時間を過ごせるよう、医療チーム全体でサポートする体制が整えられています。不安なことは一人で抱え込まず、何度でも主治医や看護師にご相談ください。
脊髄小脳変性症の鍼灸外来
一般的な鍼灸院では行わない「体の状態を客観的に捉える方法」です。
足部の温度変化を確認する検査の一例
「診断はついた。けれど、今の自分の状態がどうなのかは、よくわからない」
「薬を続ける以外に、何を意識すればいいのか、誰も教えてくれなかった」
私たちは、こうした行き場のない不安を抱える患者さんと40年間向き合ってきました。
当院では、サーモグラフィで全身の体温分布を可視化します。
脊髄小脳変性症の方では、
ご本人が感じている歩きにくさやふらつきと一致する形で、
手足の温度分布に左右差が見られることがあります。
その一致を一緒に確認することで、
「なぜ今の動きにくさが出ているのか」を整理する手がかりになります。
この検査には専門機器と解析技術が必要なため、一般的な鍼灸院で行われることはまずありません。 感覚や印象だけに頼らず、今の体の状態を落ち着いて見つめたい方のための情報提供の場として、 ご相談をお受けしています。
参考文献
この記事は、以下の資料に基づき作成されました。
- 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018(南江堂)
- すべてわかる神経難病医療(中山書店)
- 脊髄小脳変性症マニュアル決定版!(日本プランニングセンター)
- 多系統萎縮症Update(科学評論社)
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